三線と「涙(ナダ)そうそう」


8月の末に石垣島へ行ってきました。
ジリジリと照りつける太陽。
歩道には鮮やかな色をしたハイビスカスとデイゴの花。
花が日常に溶け込み、南国のゆったりとしたムードと
エメラルドグリーンの海が訪れる人の心に安らぎを与えてくれます。
そして、どこからともなく聴こえてくる三線(さんしん)の音色。

三線は古くから沖縄に伝わる楽器です。
三味線のルーツとなるもので、
ニシキヘビの皮が胴に張られていることから
本土では「蛇皮線」と呼ばれることもあります。
BOOMのヴォーカル、宮沢和史が三線を弾きながら
「島唄」を歌っていましたね・・・
この三線の音色は、底知れぬ哀愁を帯びていて、
同時に安らぎも感じ、悠久の時の流れに私達をいざなってくれます。

三線の音色と心洗われるある歌にハッとしたのは、
レストランで休憩をしている時でした。
BGMとしてかけられていた曲を初めはぼんやり聴いていたのですが、
のびやかで情感あふれる透き通った声と親しみやすいメロデイーが
次第に意識の中に入ってきました。
バックに三線の音色がさりげなく入っていて、いつしか耳を凝らして聴いていたのです。

それは夏川りみの「涙(ナダ)そうそう」でした。
「そういえば、紅白でこの歌を聴いたことがある。
確かあの時もハッとしたけど、その場限りだった・・・」
でも、今回はこの歌がなぜか心に深く染み入り、
早速CDを買いに行ったのです。

詞を読むと、愛する人をせつない想いで懐かしむ歌。
 
  「さみしくて 恋しくて 君への想い 涙そうそう」
  「会いたくて 会いたくて 君への想い 涙そうそう」

きっと愛する人は思い出の中に生きているのかな・・・
でも今はどうしても会うことができないから、
涙があふれてくるのかしら・・・その歌詞にジーンときました。
ゆったりとした島独特のメロディーと清楚で包容力の
ある歌声がいつまでも耳にこだましていました。

夏川りみの歌声は、単に「きれいな声」というだけでなく、
ちょっとした節まわしに、三線の音色そのものを感じます。
3歳の頃から毎日お父さんに演歌の猛特訓を受けてきただけあって、
発声方法や音程は確実です。
でも演歌のこぶしの入れ方とは違うのです。

どこまでも広がっていく凛とした歌声は、私の心にある限られた空間を
無限の広がりへと変えていきます。
特にサビの部分の「晴れ渡る日も 雨の日も・・・」では
真っ青に澄みきった空がイメージされ、
「悲しみにも 喜びにも・・・」では
本当にその人が受けた悲しみや喜びを実感できるような気がするのです。
そして、いつも励ましてくれる人の優しい満面の笑顔が空の中に
浮かび上がってきます。

この歌をより素晴らしいものにしているのは、声と歌い方、
そして三線の柔らかい音色だと思いました。

あとでこの曲について調べると、歌手の森山良子が、若くして
他界した兄を想って書いた詩だということがわかり、
・・・目頭が熱くなりました。


 「涙(ナダ)そうそう」    作詞:森山良子 作曲:BEGIN

古いアルバムめくり  ありがとうってつぶやいた
いつもいつも胸の中  励ましてくれる人よ
晴れ渡る日も  雨の日も  浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
おもかげ探して  よみがえる日は  涙そうそう

一番星に祈る  それが私のくせになり
夕暮れに見上げる空  心いっぱいあなた探す
悲しみにも  喜びにも  おもうあの笑顔
あなたの場所から私が
見えたら  きっといつか  会えると信じ  生きてゆく

晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
さみしくて  恋しくて  君への想い  涙そうそう  
会いたくて  会いたくて  君への想い  涙そうそう


夏川りみ:
沖縄・石垣島出身、1973年生まれ。デビューは89年。
演歌歌手として3曲出したが、ヒットせず帰郷。
その後再起を誓って上京。99年に今の名前で再デビュー。
「涙そうそう」との出会いが転機になる。
2年前に曲をつけたBEGINは、同じ石垣島の出身。